第6話 産地の農家を元気にするブランディング
 
丸浜柑橘農業協同組合連合会 内山 和秀(静岡県浜松市)

No.お客様に期待値を想像させる
 
浜名湖の東岸、三方原台地は全国でもトップレベルの日照時間を誇る平坦で温暖な地で、みかんも太陽の恵みを存分に受けておいしく育ちます。早生みかんの最盛期を迎えた11月半ば、「丸浜みかん」のキャラクター制作から7年経った丸浜柑橘農業協同組合連合会(以下、丸浜)の事務所にお邪魔すると、4兄弟のキャラクターがプリントされたジャンパーを着た内山さんが、笑顔で出迎えてくださいました。
  
藤田 「内山さん、お忙しいときにすみません。ジャンパー…お似合いですね!」
 
内山 「あははは。これは、藤田さんが来られるからって特別に着ているわけじゃないんですよ(笑)。もう日常です。」
 
藤田 「そうなんですか。しっかり定着されているんですね。」
 
内山 「他にもミニのぼりやパックに入れるラベルにもキャラクターを必ず入れて、売り場でも目に留まるようにしています。」
 
藤田 「僕もスーパーで、ネットの中に4兄弟のキャラクターが入った丸浜みかんをよく見ますよ。我が家も家族で丸浜みかんです。」
 
内山 「それは嬉しいですね。キャラクターができた時に『一度このキャラクターに決めたら積極的に表に出して使い続けて下さい』と藤田さんがおっしゃっていたので…、商品のイメージを喚起させるために、販促物には必ずキャラクターとロゴタイプを入れて統一しているんです。」
 
藤田 「キャラクターをつくる前は、『丸浜みかん』という名前では販売していませんでしたよね?」
 
内山 「えぇ、当時は店舗では『静岡県産みかん』という表示で売っていました。だから三方原台地の産地色は全くありませんでしたね。それに加えて農家の高齢化や栽培面積の減少などが深刻化していたので、農家も我々も『何とかしなくては』と対策を模索していたところ、農林事務所の方に藤田さんをご紹介していただいたんです。そのときにまず、『丸浜さんの強みは何ですか?』と聞かれたことを思い出します。」
 
藤田 「どうなりたいですか、強みは何ですか?これはブランディングを始めるときに必ずお聞きしていることなんです。」
 
内山 「それに対して私たちは言葉に詰まってしまいましたね。『丸浜産地活性化検討会(※1)』を立ち上げ、産地の活性化はもちろん、農家の活性化を目的に運営していました。農家自身もそれぞれにおいしいみかん作りには自信を持っていました。ところが、そのおいしさや産地ならではの『強み』をうまく伝えられていなかったんです。」
 
藤田 「そうでしたね、ですから検討会で農家の皆さんを含めて『自分たちは何者でこれからどこへ向かうのか?』『この事業を通して社会とどう関わっていくのか?』など…他にない価値をつくりだすために、様々な角度から議論を重ねました。」
 
内山 「はい。その中から『産地の農家を元気にする』という目標が生まれました。当時はブランディングという言葉を耳にする機会はあっても、正しい理解までには至らず、藤田さんと打ち合わせを重ねて、目標を掲げたことで、丸浜ならではの魅力的な価値を、正しく伝える。というブランディングへの意識も強くなっていったように感じます。」
 
藤田 「僕自身もブランドをディレクションしていく立場として、課題の発見、解決のために様々な視点を持つことが必要になるので、検討会で皆さんの熱い想いや愛情いっぱいのみかん作りを深く知ることができ、視野が広がりました。」
 
内山 「しかし正直、認知度が低い産地のブランディングってむずかしいんじゃないかと思っていたんです。」
 
藤田 「いえいえ。逆にあまり多くの人に知られていないっていうのは、それだけで貴重だとも言えるんですよ。それに大量生産ではないため管理がゆきとどき、新鮮なみかんを提供できるということも魅力のひとつです。『みんなが知らないけどいいもの』って、それをみつけた時のわくわく感みたいなものもあるでしょう?」
 
内山 「有名ではないものへの期待感、みたいな?」
 
藤田 「そうです。お客様に期待価値を想像させることがブランディングには重要で…『おいしい』から買うのではなく『おいしそう』と思って買っていただくんです。」
 
内山 「なるほど。そのために生まれたのが『4兄弟』なんですね。これまでに『おいしそう』と思っていただいて巣立って行った4兄弟が沢山いると思うと嬉しいです。」
 
藤田 「内山さんの言葉から、キャラクターを大切に育ててくれているのが伝わりました。」
 
内山 「もう我が子同然です(笑)。」
 
藤田 「あはは、それは僕も同じですね(笑)。」
 
内山 「でも、こういう新しいことを取り入れていく場合は、組織全体に浸透するまでにもっと時間がかかるんじゃないかと思っていました。」
 
藤田 「そうですね。組織外への浸透はそれよりも遥かに時間がかかります。でも丸浜さんは農家の数が多過ぎないところを長所にして、組織みんなでブランドの基礎をつくり、広めていくことができた。だから思ったほど時間がかからなかったんじゃないでしょうか?」
 
内山 「確かにそうかもしれません。僕ら自身もコンセプトが明確になってキャラクターの使い方がわかってきたので、より販売に活かしていくために市場に対して積極的にヒアリングを始めたんです。」
 
藤田 「市場関係者の方はどういう反応ですか?」
 
内山 「キャラクターに対して高い評価をいただいています。ヒアリングをすることで『丸浜みかんという商品の陳列には、キャラクターの露出をもっとこうしてほしい。』という意見を伝えやすくなりました。」
 
藤田 「当初の目的の通り、キャラクターとブランドを使って産地や農家を元気にしたい!という想いが着実にカタチになっているんですね。」
 
内山 「はい、4兄弟はしっかりと丸浜の柱になってくれています。」

 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 

No.2 「引きつける力」を持ったキャラクターを生み出す
 
内山 「実はキャラクター制作の進行中、『もっとインパクトのあるキャラクターの方がいいんじゃないか』というような意見も出たんです。」
 
藤田 「そうでしたか。そういったご意見をいただくこともあるので、僕はブランディングの際によく言うんです。クライアントの方がどう思うかも大切ですが、その商品を買ってくださるお客様がどう思うか、を考察してください。と…」
 
内山 「その通りですね。話題性を追うようなインパクトのあるキャラクターは丸浜には向きません。むしろ、すぐには大きな反響がなくてもじっくりと長い間、愛されるキャラクターで良かったなと感じています。」
 
藤田 「そう感じていただけて嬉しいです。僕がこのキャラクターに込めたのは『売ろう!』という気持ちでは無くて『いいな』とお客様が感じられるような気遣いを見せるということでしたから。売るためのキャラクターでは無く、お客様を引きつけるキャラクターにしたかったんです。」
 
内山 「“売る”ではなく“引きつける”ですか?」
 
藤田 「そう、“引きつける力”です。そういったキャラクターをつくるために、コンセプトを明確にして、伝えたい情報を精査し、わかりやすくまとめることに時間をかけました。」
 
内山 「当初は丸浜の主力である『片山みかん』をブランド名として売って行きたいとお願いしましたけど、藤田さんは、それでは産地の良さが伝わらないので『丸浜みかん』でいきましょうと提案されて…。方向性がひとつにまとまるには時間も労力もかかりましたね。」
 
藤田 「何しろ『産地の農家を元気にするためのブランディング』ですからね。『丸浜柑橘農業協働組合連合会のみかん』ということがハッキリとわかった方が良いですし、シンボルは丸浜ならではのブランド・コンセプトと、丸浜でしかできない表現でつくるべきだと考えました。今の時代、お客様に受け入れられるのは、柔らかい感情を感じられる人間味のあるキャラクターだと思うんです。」
 
内山 「たしかに、そうですね。今だからこそ、先程の『引きつける力』の意味がよく理解できます。」
 
藤田 「僕はあの時、丸浜さんのブランディングにおいて、本当にキャラクターをつくることが効果的なのか?という原点に戻って考えたりもしました。」
 
内山 「え?じゃぁ、もしかしたら、キャラクター以外の方法を取っていた可能性もあったわけですか?」
 
藤田 「はい。依頼されたことだけの狭い視野で考えてしまうと、キャラクターという入れ物の中に特徴を詰め込むだけになってしまいますからね。最近はあちこちでよくブランディングが救世主のごとく扱われていますが、独自のブランド化のためには、選ばれるために『何を変えていくか?』『どんな切り口で何をプラスしていくか?』やるべきことを具体化しなければいけません。」
 
内山 「なるほど。私たち自身も打合せを重ねる中で丸浜の強みを認識することができたし、それをどう活かし、ブランド化して市場を切り開いていくか?という思考に変わっていきましたね。」
 
藤田 「あの時丸浜さんにとって必要なのは、メッセージ・シンボルとして楽しさ、面白さといった感情やストーリー性を持ったものだと考えたので…」
 
内山 「産地の魅力と商品を象徴するキャラクターが最適だという結論に至ったんですね。」
 
藤田 「そうなんです。丸浜から連想されるビジュアルが無かったので、コミュニケーションに必要なアイコンとしてキャラクターをつくり、正しいイメージを喚起すべきだと思いました。キャラクターが決まるまでには厳しいご意見もいただきましたが…それに応えるために緊張感をもって制作ができたと思います。そうして生まれたのが4兄弟のキャラクターでした。」
 
内山 「個性は違うけどみんな元気、仲良し丸浜4兄弟ですね。藤田さんはコンセプトをつくっていく段階で『みかんは家族のコミュニケーション・フルーツだ』とおっしゃっていましたよね。それを踏まえた上でご提案いただいたキャラクターの『4兄弟』からは、私たちの想いだけでなく、家族の温かみやみんなで一緒に食べる雰囲気が感じられ、これなら丸浜みかんのイメージがお客様に伝わるんじゃないかと思いました。」
 
藤田 「主力の片山を筆頭に、早生・極早生・青島の4品種をみかんの兄弟にして、『大事に育てた、大地のみかん』というブランドスローガンを使うことで、愛情と太陽の恵みたっぷりの丸浜みかんの良さが伝わるようにしました。」
 
内山 「他の産地との違いもわかりやすいですね。」
 
藤田 「はい。しっかりと組み立てられたコンセプトから生まれたキャラクターには、強いメッセージ性があり、見た人の感情に届き記憶に残りやすいんです。4兄弟に続いてご依頼いただいた『ブルーベリー』のキャラクターも、もちろん『引きつける力』を考えてつくっています。」
 
内山 「女の子のベリーちゃんですね!ブルーベリーの生産量が整ってきたので、こちらも藤田さんにお願いすることにしました。ていねいに摘み取るブルーベリーの収穫作業から、果実を台地の宝石に見立てて…とても可愛らしいキャラクターになっていると思います。」
 
藤田 「キャラクターはいろいろなシチュエーションで使われることを想定してつくっているので、4兄弟とベリーちゃんは並んでも違和感が無いように、雰囲気も統一させました。」
 
内山 「2つのブランドを統一したキャラクターとロゴで販売していくことで、丸浜のブランド・イメージも確立されたように思います。こうやって改めてお話を聞くと、キャラクターをつくったときにももちろん納得していたことが、さらに深い部分にストンと落とし込まれた感じがしますね。」
 
藤田 「それは、丸浜さんが販売戦略をしっかり考えて露出を統一し、キャラクターを愛して大切に使ってきたからこそだと思いますよ。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 

No.3 歩みながら継続する
 
内山 「これまでやってきた中で『これが正解だった』というものは、正直わからないんですが、とにかくキャラクターの露出を増やすことは継続してきて…この『継続』だけはやってきて良かったなと実感しています。」
 
藤田 「でも、その継続がなかなかできないんですよね。」
 
内山 「それはもう、農家さんにも繰り返し繰り返し伝え、仕組みをつくっていきましたから、大変です(笑)。でもその分、身になったときの喜びは大きいです。最近ではブルーベリーの出荷量も増えて、商品としてだけで無く原料としての受注が増えたんですよ。」
 
藤田 「そうですか。とても良い方向に向かっていますね。」
 
内山 「はい。ありがたいことに様々な方面から声をかけていただいていまして…。いろんなコラボ商品を出させていただいています。」
 
藤田 「やっぱりキャラクターがあることが大きいですか?」
 
内山 「そうですね。できる限りキャラクターを提供させていただけるようにお願いします。地道ではありますけど、これもまた継続していくことですね。そして出荷量をもっともっと増やしていきたいですね。」
 
藤田 「出荷量が増えたということは、農家さんの数も増えたんですか?」
 
内山 「課題となっていた高齢化に対する対策として、ニューファーマーという農業の経験の無い若い人を育成しているんですよ。みかんとブルーベリー合わせて20名程います。」
 
藤田 「それは未来が明るいですね〜!ブランディングによって売上を伸ばすと共に、若い人材の育成…本当に産地が元気になっていますね。」
 
内山 「実は、まだキャラクターをつくるまでの出荷量が無いフルーツも控えていて…それらも、今後みかんやブルーベリーと同じようにブランドとして確立できたら嬉しいですね。」
 
藤田 「素晴らしいです。これから『三方原台地で採れた果実は太陽の恵みがいっぱい』と認識されるようなフルーツの丘を目指したいですね!そしてゆくゆくは、キャラクターが『丸浜』の安心・安全の印のようになればいいなと思います。」
 
内山 「いいですね!まだまだこれからですが、キャラクターができて進むべき方向が決まって、やっと基礎ができたんじゃないでしょうか。」
 
藤田 「『何とかしたい。』と思い立ってキャラクターをつくることも大切なんですが、丸浜さんがキャラクターをつくって終わりにせず、キャラクターを育てていることがしっかりとした基礎をつくったんだと思います。」
 
内山 「それじゃあ、これからも『継続』ですかね。でも、日々何かしらの行動をしないと『継続』ではないと感じます。」
 
藤田 「そうですね、『発信し続ける』ということでしょうか。コンセプトのように変えてはいけないものと、売り方や表現の仕方などの変えていくべきもの、その両方のバランスをコントロールして前進していくことだと思います。先程内山さんもおっしゃっていましたが、『何か一つが正解だった』というのはありません。日々模索しながら『継続』して積み重ねてきたこと。これが一番だと思います。」
 
内山 「ありがとうございます。やっぱり時代が変われば、方法や売り方も変わっていきますね。継続と言えば、ブルックスタジオさんも30年間継続してこられたわけですよね?」
 
藤田 「はい。まさに30年間変わりながら続けてきましたね。コンセプトは30年経った今も変わりませんが、依頼主の目的やお客様のニーズに合わせた表現や媒体は何か…というものを常に探ってきました。僕らの仕事は、デザインをすることが目的ではなくて、デザインの思考と手法でコトを起こすことですから、時代の流れや、お客様のニーズを無視してデザインを機能させることはできないんです。」
 
内山 「それは僕たちで言えば、良い商品(果物)を作るだけでは売れるわけでは無いのと一緒ですね。」
 
藤田 「その通りです。特に食ベ物は嗜好品ですから、その商品のお客様にとっての価値をどれだけ見つけることができ、正確に伝えられるかが重要です。その伝える方法が時代によって変化するわけですね。」
 
内山 「なるほどね…。『おいしそう』と伝える方法は変わると。」
 
藤田 「僕が子供のころは、各家庭には段ボール箱に入ったみかんがありましたけど、今は核家族になって、欲しいときに少量を買うって感じですよね。これもまた時代というのか。」
 
内山 「そうなんですよ。昔はホームドラマなんかでも『こたつにみかん』という光景を目にしましたけど…。」
 
藤田 「懐かしいですね〜!静岡の冬の風物詩でしたよね。」
 
内山 「でも時代は変わります。現代の消費者は鋭い選択眼を持つようになってきましたし、選択肢もたくさんあります。そういった時代の変化にいかに対応していけるかが課題ですね。」
 
藤田 「最近では、日本国内に留まらず海外への販路も広げられている中で、海外向けのパンフレットや段ボールのデザインもご協力させていただきました。そんな前向きな丸浜さんのお手伝いができているのがとても嬉しいです!」
 
内山 「これからも産地の農家を元気にするために頑張ります。そしてさらにブランドを浸透させられるよう『継続』していきたいと思います。あ!もちろん、毎日この4兄弟のジャンパーを着てね(笑)。」
 
2017年11月15日丸浜柑橘農業協同組合連合会にて
 
 
 
 

No.お客様に期待値を想像させる
 
浜名湖の東岸、三方原台地は全国でもトップレベルの日照時間を誇る平坦で温暖な地で、みかんも太陽の恵みを存分に受けておいしく育ちます。早生みかんの最盛期を迎えた11月半ば、「丸浜みかん」のキャラクター制作から7年経った丸浜柑橘農業協同組合連合会(以下、丸浜)の事務所にお邪魔すると、4兄弟のキャラクターがプリントされたジャンパーを着た内山さんが、笑顔で出迎えてくださいました。
  
藤田 「内山さん、お忙しいときにすみません。ジャンパー…お似合いですね!」
 
内山 「あははは。これは、藤田さんが来られるからって特別に着ているわけじゃないんですよ(笑)。もう日常です。」
 
藤田 「そうなんですか。しっかり定着されているんですね。」
 
内山 「他にもミニのぼりやパックに入れるラベルにもキャラクターを必ず入れて、売り場でも目に留まるようにしています。」
 
藤田 「僕もスーパーで、ネットの中に4兄弟のキャラクターが入った丸浜みかんをよく見ますよ。我が家も家族で丸浜みかんです。」
 
内山 「それは嬉しいですね。キャラクターができた時に『一度このキャラクターに決めたら積極的に表に出して使い続けて下さい』と藤田さんがおっしゃっていたので…、商品のイメージを喚起させるために、販促物には必ずキャラクターとロゴタイプを入れて統一しているんです。」
 
藤田 「キャラクターをつくる前は、『丸浜みかん』という名前では販売していませんでしたよね?」
 
内山 「えぇ、当時は店舗では『静岡県産みかん』という表示で売っていました。だから三方原台地の産地色は全くありませんでしたね。それに加えて農家の高齢化や栽培面積の減少などが深刻化していたので、農家も我々も『何とかしなくては』と対策を模索していたところ、農林事務所の方に藤田さんをご紹介していただいたんです。そのときにまず、『丸浜さんの強みは何ですか?』と聞かれたことを思い出します。」
 
藤田 「どうなりたいですか、強みは何ですか?これはブランディングを始めるときに必ずお聞きしていることなんです。」
 
内山 「それに対して私たちは言葉に詰まってしまいましたね。『丸浜産地活性化検討会(※1)』を立ち上げ、産地の活性化はもちろん、農家の活性化を目的に運営していました。農家自身もそれぞれにおいしいみかん作りには自信を持っていました。ところが、そのおいしさや産地ならではの『強み』をうまく伝えられていなかったんです。」
 
藤田 「そうでしたね、ですから検討会で農家の皆さんを含めて『自分たちは何者でこれからどこへ向かうのか?』『この事業を通して社会とどう関わっていくのか?』など…他にない価値をつくりだすために、様々な角度から議論を重ねました。」
 
内山 「はい。その中から『産地の農家を元気にする』という目標が生まれました。当時はブランディングという言葉を耳にする機会はあっても、正しい理解までには至らず、藤田さんと打ち合わせを重ねて、目標を掲げたことで、丸浜ならではの魅力的な価値を、正しく伝える。というブランディングへの意識も強くなっていったように感じます。」
 
藤田 「僕自身もブランドをディレクションしていく立場として、課題の発見、解決のために様々な視点を持つことが必要になるので、検討会で皆さんの熱い想いや愛情いっぱいのみかん作りを深く知ることができ、視野が広がりました。」
 
内山 「しかし正直、認知度が低い産地のブランディングってむずかしいんじゃないかと思っていたんです。」
 
藤田 「いえいえ。逆にあまり多くの人に知られていないっていうのは、それだけで貴重だとも言えるんですよ。それに大量生産ではないため管理がゆきとどき、新鮮なみかんを提供できるということも魅力のひとつです。『みんなが知らないけどいいもの』って、それをみつけた時のわくわく感みたいなものもあるでしょう?」
 
内山 「有名ではないものへの期待感、みたいな?」
 
藤田 「そうです。お客様に期待価値を想像させることがブランディングには重要で…『おいしい』から買うのではなく『おいしそう』と思って買っていただくんです。」
 
内山 「なるほど。そのために生まれたのが『4兄弟』なんですね。これまでに『おいしそう』と思っていただいて巣立って行った4兄弟が沢山いると思うと嬉しいです。」
 
藤田 「内山さんの言葉から、キャラクターを大切に育ててくれているのが伝わりました。」
 
内山 「もう我が子同然です(笑)。」
 
藤田 「あはは、それは僕も同じですね(笑)。」
 
内山 「でも、こういう新しいことを取り入れていく場合は、組織全体に浸透するまでにもっと時間がかかるんじゃないかと思っていました。」
 
藤田 「そうですね。組織外への浸透はそれよりも遥かに時間がかかります。でも丸浜さんは農家の数が多過ぎないところを長所にして、組織みんなでブランドの基礎をつくり、広めていくことができた。だから思ったほど時間がかからなかったんじゃないでしょうか?」
 
内山 「確かにそうかもしれません。僕ら自身もコンセプトが明確になってキャラクターの使い方がわかってきたので、より販売に活かしていくために市場に対して積極的にヒアリングを始めたんです。」
 
藤田 「市場関係者の方はどういう反応ですか?」
 
内山 「キャラクターに対して高い評価をいただいています。ヒアリングをすることで『丸浜みかんという商品の陳列には、キャラクターの露出をもっとこうしてほしい。』という意見を伝えやすくなりました。」
 
藤田 「当初の目的の通り、キャラクターとブランドを使って産地や農家を元気にしたい!という想いが着実にカタチになっているんですね。」
 
内山 「はい、4兄弟はしっかりと丸浜の柱になってくれています。」

 
No.2へつづく ▲ Interview No.2へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.2 「引きつける力」を持ったキャラクターを生み出す
 
内山 「実はキャラクター制作の進行中、『もっとインパクトのあるキャラクターの方がいいんじゃないか』というような意見も出たんです。」
 
藤田 「そうでしたか。そういったご意見をいただくこともあるので、僕はブランディングの際によく言うんです。クライアントの方がどう思うかも大切ですが、その商品を買ってくださるお客様がどう思うか、を考察してください。と…」
 
内山 「その通りですね。話題性を追うようなインパクトのあるキャラクターは丸浜には向きません。むしろ、すぐには大きな反響がなくてもじっくりと長い間、愛されるキャラクターで良かったなと感じています。」
 
藤田 「そう感じていただけて嬉しいです。僕がこのキャラクターに込めたのは『売ろう!』という気持ちでは無くて『いいな』とお客様が感じられるような気遣いを見せるということでしたから。売るためのキャラクターでは無く、お客様を引きつけるキャラクターにしたかったんです。」
 
内山 「“売る”ではなく“引きつける”ですか?」
 
藤田 「そう、“引きつける力”です。そういったキャラクターをつくるために、コンセプトを明確にして、伝えたい情報を精査し、わかりやすくまとめることに時間をかけました。」
 
内山 「当初は丸浜の主力である『片山みかん』をブランド名として売って行きたいとお願いしましたけど、藤田さんは、それでは産地の良さが伝わらないので『丸浜みかん』でいきましょうと提案されて…。方向性がひとつにまとまるには時間も労力もかかりましたね。」
 
藤田 「何しろ『産地の農家を元気にするためのブランディング』ですからね。『丸浜柑橘農業協働組合連合会のみかん』ということがハッキリとわかった方が良いですし、シンボルは丸浜ならではのブランド・コンセプトと、丸浜でしかできない表現でつくるべきだと考えました。今の時代、お客様に受け入れられるのは、柔らかい感情を感じられる人間味のあるキャラクターだと思うんです。」
 
内山 「たしかに、そうですね。今だからこそ、先程の『引きつける力』の意味がよく理解できます。」
 
藤田 「僕はあの時、丸浜さんのブランディングにおいて、本当にキャラクターをつくることが効果的なのか?という原点に戻って考えたりもしました。」
 
内山 「え?じゃぁ、もしかしたら、キャラクター以外の方法を取っていた可能性もあったわけですか?」
 
藤田 「はい。依頼されたことだけの狭い視野で考えてしまうと、キャラクターという入れ物の中に特徴を詰め込むだけになってしまいますからね。最近はあちこちでよくブランディングが救世主のごとく扱われていますが、独自のブランド化のためには、選ばれるために『何を変えていくか?』『どんな切り口で何をプラスしていくか?』やるべきことを具体化しなければいけません。」
 
内山 「なるほど。私たち自身も打合せを重ねる中で丸浜の強みを認識することができたし、それをどう活かし、ブランド化して市場を切り開いていくか?という思考に変わっていきましたね。」
 
藤田 「あの時丸浜さんにとって必要なのは、メッセージ・シンボルとして楽しさ、面白さといった感情やストーリー性を持ったものだと考えたので…」
 
内山 「産地の魅力と商品を象徴するキャラクターが最適だという結論に至ったんですね。」
 
藤田 「そうなんです。丸浜から連想されるビジュアルが無かったので、コミュニケーションに必要なアイコンとしてキャラクターをつくり、正しいイメージを喚起すべきだと思いました。キャラクターが決まるまでには厳しいご意見もいただきましたが…それに応えるために緊張感をもって制作ができたと思います。そうして生まれたのが4兄弟のキャラクターでした。」
 
内山 「個性は違うけどみんな元気、仲良し丸浜4兄弟ですね。藤田さんはコンセプトをつくっていく段階で『みかんは家族のコミュニケーション・フルーツだ』とおっしゃっていましたよね。それを踏まえた上でご提案いただいたキャラクターの『4兄弟』からは、私たちの想いだけでなく、家族の温かみやみんなで一緒に食べる雰囲気が感じられ、これなら丸浜みかんのイメージがお客様に伝わるんじゃないかと思いました。」
 
藤田 「主力の片山を筆頭に、早生・極早生・青島の4品種をみかんの兄弟にして、『大事に育てた、大地のみかん』というブランドスローガンを使うことで、愛情と太陽の恵みたっぷりの丸浜みかんの良さが伝わるようにしました。」
 
内山 「他の産地との違いもわかりやすいですね。」
 
藤田 「はい。しっかりと組み立てられたコンセプトから生まれたキャラクターには、強いメッセージ性があり、見た人の感情に届き記憶に残りやすいんです。4兄弟に続いてご依頼いただいた『ブルーベリー』のキャラクターも、もちろん『引きつける力』を考えてつくっています。」
 
内山 「女の子のベリーちゃんですね!ブルーベリーの生産量が整ってきたので、こちらも藤田さんにお願いすることにしました。ていねいに摘み取るブルーベリーの収穫作業から、果実を台地の宝石に見立てて…とても可愛らしいキャラクターになっていると思います。」
 
藤田 「キャラクターはいろいろなシチュエーションで使われることを想定してつくっているので、4兄弟とベリーちゃんは並んでも違和感が無いように、雰囲気も統一させました。」
 
内山 「2つのブランドを統一したキャラクターとロゴで販売していくことで、丸浜のブランド・イメージも確立されたように思います。こうやって改めてお話を聞くと、キャラクターをつくったときにももちろん納得していたことが、さらに深い部分にストンと落とし込まれた感じがしますね。」
 
藤田 「それは、丸浜さんが販売戦略をしっかり考えて露出を統一し、キャラクターを愛して大切に使ってきたからこそだと思いますよ。」
 
No.3へつづく  ▲ Interview No.3へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 

No.3 歩みながら継続する
 
内山 「これまでやってきた中で『これが正解だった』というものは、正直わからないんですが、とにかくキャラクターの露出を増やすことは継続してきて…この『継続』だけはやってきて良かったなと実感しています。」
 
藤田 「でも、その継続がなかなかできないんですよね。」
 
内山 「それはもう、農家さんにも繰り返し繰り返し伝え、仕組みをつくっていきましたから、大変です(笑)。でもその分、身になったときの喜びは大きいです。最近ではブルーベリーの出荷量も増えて、商品としてだけで無く原料としての受注が増えたんですよ。」
 
藤田 「そうですか。とても良い方向に向かっていますね。」
 
内山 「はい。ありがたいことに様々な方面から声をかけていただいていまして…。いろんなコラボ商品を出させていただいています。」
 
藤田 「やっぱりキャラクターがあることが大きいですか?」
 
内山 「そうですね。できる限りキャラクターを提供させていただけるようにお願いします。地道ではありますけど、これもまた継続していくことですね。そして出荷量をもっともっと増やしていきたいですね。」
 
藤田 「出荷量が増えたということは、農家さんの数も増えたんですか?」
 
内山 「課題となっていた高齢化に対する対策として、ニューファーマーという農業の経験の無い若い人を育成しているんですよ。みかんとブルーベリー合わせて20名程います。」
 
藤田 「それは未来が明るいですね〜!ブランディングによって売上を伸ばすと共に、若い人材の育成…本当に産地が元気になっていますね。」
 
内山 「実は、まだキャラクターをつくるまでの出荷量が無いフルーツも控えていて…それらも、今後みかんやブルーベリーと同じようにブランドとして確立できたら嬉しいですね。」
 
藤田 「素晴らしいです。これから『三方原台地で採れた果実は太陽の恵みがいっぱい』と認識されるようなフルーツの丘を目指したいですね!そしてゆくゆくは、キャラクターが『丸浜』の安心・安全の印のようになればいいなと思います。」
 
内山 「いいですね!まだまだこれからですが、キャラクターができて進むべき方向が決まって、やっと基礎ができたんじゃないでしょうか。」
 
藤田 「『何とかしたい。』と思い立ってキャラクターをつくることも大切なんですが、丸浜さんがキャラクターをつくって終わりにせず、キャラクターを育てていることがしっかりとした基礎をつくったんだと思います。」
 
内山 「それじゃあ、これからも『継続』ですかね。でも、日々何かしらの行動をしないと『継続』ではないと感じます。」
 
藤田 「そうですね、『発信し続ける』ということでしょうか。コンセプトのように変えてはいけないものと、売り方や表現の仕方などの変えていくべきもの、その両方のバランスをコントロールして前進していくことだと思います。先程内山さんもおっしゃっていましたが、『何か一つが正解だった』というのはありません。日々模索しながら『継続』して積み重ねてきたこと。これが一番だと思います。」
 
内山 「ありがとうございます。やっぱり時代が変われば、方法や売り方も変わっていきますね。継続と言えば、ブルックスタジオさんも30年間継続してこられたわけですよね?」
 
藤田 「はい。まさに30年間変わりながら続けてきましたね。コンセプトは30年経った今も変わりませんが、依頼主の目的やお客様のニーズに合わせた表現や媒体は何か…というものを常に探ってきました。僕らの仕事は、デザインをすることが目的ではなくて、デザインの思考と手法でコトを起こすことですから、時代の流れや、お客様のニーズを無視してデザインを機能させることはできないんです。」
 
内山 「それは僕たちで言えば、良い商品(果物)を作るだけでは売れるわけでは無いのと一緒ですね。」
 
藤田 「その通りです。特に食ベ物は嗜好品ですから、その商品のお客様にとっての価値をどれだけ見つけることができ、正確に伝えられるかが重要です。その伝える方法が時代によって変化するわけですね。」
 
内山 「なるほどね…。『おいしそう』と伝える方法は変わると。」
 
藤田 「僕が子供のころは、各家庭には段ボール箱に入ったみかんがありましたけど、今は核家族になって、欲しいときに少量を買うって感じですよね。これもまた時代というのか。」
 
内山 「そうなんですよ。昔はホームドラマなんかでも『こたつにみかん』という光景を目にしましたけど…。」
 
藤田 「懐かしいですね〜!静岡の冬の風物詩でしたよね。」
 
内山 「でも時代は変わります。現代の消費者は鋭い選択眼を持つようになってきましたし、選択肢もたくさんあります。そういった時代の変化にいかに対応していけるかが課題ですね。」
 
藤田 「最近では、日本国内に留まらず海外への販路も広げられている中で、海外向けのパンフレットや段ボールのデザインもご協力させていただきました。そんな前向きな丸浜さんのお手伝いができているのがとても嬉しいです!」
 
内山 「これからも産地の農家を元気にするために頑張ります。そしてさらにブランドを浸透させられるよう『継続』していきたいと思います。あ!もちろん、毎日この4兄弟のジャンパーを着てね(笑)。」
 
2017年11月15日丸浜柑橘農業協同組合連合会にて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

丸浜柑橘農業協同組合連合会
 
1968年(昭和43年)浜松市内総合農協並びに開拓農協を始め、静岡市農協、清水市農協、静岡県経済連(旧静岡県柑橘連)、静岡県開拓連の共同出資により丸浜柑橘農業協同組合連合会が組織される。産地規模は約133 みかん生産者250人
 
▶︎丸浜柑橘農業協同組合連合会ホームページ


 ※1)丸浜柑橘農業協同組合連合会が主体となり、年6回程の頻度で開催される産地・農家の活性化を促すための生産者を含めた検討会。