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第8話 いのちの森を未来へ。

NPO 時ノ寿の森クラブ 理事長 松浦 成夫氏(静岡県掛川市)

 
 掛川駅から北に15㎞あまり、倉真地区にNPO法人時ノ寿の森クラブの活動の場があります。冬の澄んだ空から差し込む日差しを浴びながら、長い坂道を上っていくと拠点となる「森の集会所」が見えてきます。自然のいのちが豊かなこの山で、鳥のさえずりをBGMに対談が始まりました。
 

 No.1 林業が成立しなくても山は大切な宝だ

藤田 このあたりもここ数年でずいぶんきれいになりましたね。 
 
松浦 そうですね。道が整備されて、山も日が差すようになり明るくなりました。ここは僕の生まれ故郷なんですが、1960年代には12戸あった集落も、1975年には全てが山を降り、廃村となりました。
 
藤田 松浦家が最後の1軒だったんですよね。
 
松浦 はい。倉真川の下流域に移り住んでからも、両親の手伝いで茶畑の手入れに集落跡に通いながら、徐々に荒廃していく集落を見続けていました。人が去ると杉やヒノキのような人工林は徐々に衰え、子どもの頃に走り回った森や川、夏休みに飛び込んでいた滝壺が無残な姿になっていることに心を痛めました。
  
藤田 今の活動を始めるきっかけとなったのは、そうして衰えていく故郷への強い想いでしょうか?
  
松浦 それはもちろんですが、「山が荒れると国が滅びる」と言う先人の言葉に背筋が凍り、危機感が募ったんです。このまま森が荒れれば、流域ひいては海までも荒れてしまう。何とかしなければという想いをずっと持っていました。
  
藤田 そんな危機感が活動の背景にあったんですね。
  
松浦 今から20年ほど前になりますが、「安心・安全なお米とお茶をつくりたい」という妻の想いと「源流域の森林保全は、安心・安全なまちづくりの原点だ」という僕の想いが相まって、もう一度山に目を向けるようになったんです。そこで妻と仲間数人と、集落跡に残っていた炭窯を補修し、災害などの緊急時に暖房や煮炊きにも使えるよう、炭焼きを始めました。
 
藤田 それが「炭焼きルネッサンスの会」の立ち上げですね。炭焼きは、循環型社会の山村の知恵を象徴する代表格ですよね。しかも二酸化炭素の排出を抑制する地球温暖化にも貢献できます。環境保全と防災を重視して、山村の価値にもこだわる・・・松浦さんらしいやり方です。
 
松浦 でも、すぐに直面したのは、個人の炭焼きだけでは里山の荒廃には立ち向かえないという現実です。 
 
藤田 個人の活動では限界があると・・・。
  
松浦 そうなんです。さらには「昔と同じように、子供たちが口に入れるものも安全に」と願って始めたお米とお茶の無農薬・有機栽培も虫や病気に侵され生産量はほんのわずかでした。「はたしてこの先何年かかるんだろう・・・」と頭をかかえました。
 
藤田 僕が初めて参加した活動は炭焼きだったんですが、森を守る活動というと、最初は木を植える様子を思い浮かべたんですよね。お恥ずかしい話、森林保全に対する知識がまだまだ足りませんでした。
 
松浦 最初は炭焼きと間伐が主な活動だったんです。本格的に植樹を始めたのは、毎日新聞社の植樹キャンペーンと連携した広葉樹の植樹からですね。そのキャンペーンには多くの一般の方にも参加していただきました。 
 
藤田 それまでの活動を地道に発信し、少しでも多くの方に賛同していただこうと努力されたんですね。
 
松浦 はい。諦めずに自分たちの想いを発信していくことで、ひとり、またひとりと「静観者」から「仲間」になってくれたんです。それは嬉しかったなー。
 
藤田 結成当時のご苦労は、途中から加入した僕なんかじゃ計り知れません・・・。たくさんの方に支えられて今日があるんですね。
 
松浦 そうですね。休日ごとに「仲間」となったメンバーひとりひとりが、自分たちの技術、機材、そして体力を惜しみなく注いだ結果、少しずつではありますが昔の里山の風景が戻ってきました。
  
藤田 強い想いが中心になって、官民一体となることによって、森林保全につながっているんですね。 
 
松浦 活動していく中で思ったことは、自然は厳しいし、人間が思うほど簡単なものではないということです。半端ではない自然の力を前に「自分達に出来ること」を模索していく中で、真っ先に取り組んだのが間伐でした。森林の役割は木材生産のためだけではありません。生態系や生命を守る大きな働きを持っているんです。
  
藤田 僕も間伐のお手伝いに参加しましたが、勾配の急な斜面での慣れない作業は神経も体力も使いました。
 
松浦 半世紀かけて荒廃した森林はそう簡単に再生しません。だから気長に楽しく活動するように心がけてきました。手間はかかりますが、それだけやりがいもあります。
  
藤田 作業を終えたときの達成感は、僕の日常では味わえないものですよね。さらに山で食べるお弁当の美味しさはひとしおで、いつも大きなおにぎりを3つも持って行くんです。
 
松浦 山仕事の醍醐味でしょう? そういったことも含めて、多くの人に知っていただきたいんです。
 
藤田 僕自身、森の魅力や間伐の大切さは松浦さんと出会ってから知りました。間伐や下草刈りなどの活動をされている方のお話を世間一般の方にもっともっと知っていただきたいですね。
 
松浦 僕たちの地道な活動に対して、自然はしっかりと応えてくれています。失われたものは時間をかけて戻していくことが出来るんですよ。
 
藤田 とても息の長い活動ですね。
 
松浦 確かに時間はかかります。でも50人、100人と賛同者が増え、会員は今年の12月(2017年)で200人になりました。これまで同様にコツコツやっていくことが大切だと思います。その一方で、世の中に山の大切さを訴え、発信していくこともまた大事だと感じています。活動をテレビや新聞に取り上げていただくことで、自分たちも励みになりましたし、関心を持って活動に参加してくれる人や、応援してくれる人も増えて活動の輪が広がっています。
 
藤田 「いのちの森を未来へ」を合言葉に、活動のモノサシを、「近者悦べば、遠者来る」として、「地域をより良くしていこう」と時間をかけて取り組んできたことが、しっかりとカタチになってきているんですね。
 
松浦 うーん・・・少しずつ見えてきたのかな。近くにいる人が喜び、幸せであると、遠くの人もそれを聞いて集まってくる。そのようにするべきだし、その言葉を胸に抱き活動してきましたからね。

     

 



ブルックスタジオ制作実例

>時ノ寿の森クラブ
>Grace of Forest
 

NPO法人 時ノ寿の森クラブ

静岡県掛川市倉真字時ノ寿地内の森林の持つ豊かな多様性と多面的な機能の大切さを訴求するとともに、その保全に必要な事業を行い、未来の子どもたちにふるさとの森を本来の姿で引き継ぐことを目的として環境共生型森林保全活動を続ける。
 
▶︎時ノ寿の森クラブホームページ

 


 
※1)森の集会所:木造伝統工法で建ててられた、約84平方メートル平屋建て。子供や大人、都会や山村の人たち、様々な人たちの知識や技術が交流する拠点。
※2)高齢者を暖かくもてなすCO2固定ベンチ設置事業:2015年4月に開業する希望の丘各施設利用者の利便向上施策として、時ノ寿の森の間伐材を社会に活用する山、町、人の資源循環活用システム。市民活動日本一を目指す掛川市市民活動推進モデル事業。
※3)森のようちえん:時ノ寿の森の自然環境を利用した幼児教育や子育て支援活動。自然の中で仲間と遊び、心と体のバランスの取れた発達と発育を目指す。
※4)時ノ寿学校:里地里山の環境資源を活用し、様々な活動を通して、子供から大人までが自然とともに生きるための「心」と「体」や生きる術を身につける私塾。

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